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最重要ポイントは「夜の睡眠」
■睡眠の質を高めれば、認知症の原因物質が排出されやすくなる
認知症の中でも特に多いと言われる「アルツハイマー型認知症」は、「アミロイドβ」というたんぱく質の一種が脳に蓄積して、脳が萎縮することで引き起こされると言われます。アミロイドβは、脳が活発に働いている時に分泌され、睡眠中に不要な物質として分解・排出されています。
つまり「質の良い睡眠をとる」ことが、アミロイドβを脳に蓄積させない最重要ポイントなのです。ただし、昼寝などではアミロイドβは排出されないので、夜ぐっすり眠ることを心がけ、昼寝をする場合は短時間の睡眠程度に留めておきましょう。質の良い睡眠やパワーナップについては、下記の記事も参考にしてみてください。
「日中の活動」も見逃せないポイント
■40~50代は特に「適度な運動」を
認知症を防ぐためには、日中の活動を充実させることも重要。ポイントは、以下の3つです。
・適度な運動
・知的活動(頭を使って指先を動かすなど)
・コミュニケーション
40~50代の方なら、知的活動やコミュニケーションは仕事や家事などの日常生活で十分補えているケースが多いと思われます。一方で、仕事をしているとデスクワークで長時間座りっぱなしになるなど、「適度な運動」が不足しがちな方も多いので、ちょっとした機会にも運動を意識すると良いでしょう。たとえばエスカレーターの代わりに階段を使う、通勤の際にひと駅分歩く、駐車場で遠めのスペースに停めて目的地まで歩く……といったことでも運動の機会になります。
その一方で、ジョギングや水泳などの有酸素運動ばかりをやり過ぎると、筋肉までも“燃料”として消費してしまい、筋力の衰えにつながってしまいます。たとえば1万歩以上ウォーキングするよりも、7000歩だけ歩き、後は筋肉が衰えないよう軽い筋トレを組み合わせるほうがベターです。軽い筋トレの内容については、下記の記事も参考にしてみてください。
■コミュニケーションは「脳への刺激」を意識して
認知症予防に役立てるには、コミュニケーションも「量より質」を意識したいところです。たとえば、気心の知れたメンバーと決まりきった会話や同じ昔話ばかりしていても、脳はあまり活性化されず、認知症予防効果もさほど期待できません。
そこで、新しい話題についてあれこれ考えながら話をしたり、時には初対面の人とコミュニケーションを取ることに挑戦したりすると、脳への刺激も大きく、より活性化するはずです。ちなみにオンラインでのコミュニケーションも良いですが、対面で表情や雰囲気などさまざまな情報を取り入れながら会話するほうが、効果が期待できます。自分で行程などの計画を立てて、旅行をするのもおすすめです。
■アロマテラピーも認知症予防に!
浦上先生の臨床研究で、アルツハイマー型認知症では「認知の異常に先んじて、嗅覚の異常が起こってくる」ことがわかっています。嗅神経(嗅覚を司る神経)と海馬(記憶を司る神経)はつながっており、嗅神経の機能が低下したのちに、海馬の機能が低下してくるのです。
そこで、アロマテラピーを利用して弱ってきた嗅神経を刺激することで、機能低下を抑えられることも浦上先生の研究でわかっています。昼はローズマリー・カンファーとレモンの精油を2:1で配合したものが脳を活性化し、夜は真正ラベンダーとスイートオレンジの精油を2:1で配合したものが脳の疲れをとるとされています。精油の取り入れ方については、下記の記事も参考にしてみてください。
健康な生活は認知症予防にも有効
■生活習慣病予防は認知症の予防にもなる
肥満・高血圧・糖尿病といった生活習慣病は、認知症の因子となることが広く知られています。また近年、コレステロールを適正にコントロールできていないと、認知症のリスクが高まることもわかってきました。規則正しい生活や良質な睡眠、バランスの取れた食生活など、生活習慣病の予防対策は認知症の予防対策としても有効なものばかり。加えて美容にも良いですから、ぜひ取り組みたいところです。
■喫煙や過度の飲酒は認知症のリスクに
数十年前までは「煙草のニコチンに認知症予防効果がある」と言われることもありましたが、その後の調査によって「喫煙習慣のある人は認知症のリスクも高い」ということがわかっています。また、アルコールを飲むことは脳の神経細胞に対して毒性を持っていると言われ、長年にわたって過量飲酒された方は、飲酒しない方に比べて脳の萎縮の程度が強い、つまり認知症の発症リスクが高いとされています。
禁酒とまではいかないものの、お酒の適量は1日あたり、日本酒で1合、ビールでロング缶1本、ワインでグラス2杯弱ほどと意外と少ないですから、ほどほどに収めておきましょう。
認知症予防というと、クイズや計算、パズルなどのいわゆる「脳トレ」的なプログラムばかりを連想しがちかもしれません。実は筋トレや旅行、アロマテラピーなど、普通の趣味のように取り組める予防対策もたくさんあるとわかって、驚いた方もいるのではないでしょうか。まずは予防対策として「長く続けられる、脳への刺激が絶えない趣味」をいまのうちから探してみるのも良いかもしれませんね。
- ●監修者
浦上克哉(うらかみかつや) -
1983年鳥取大学医学部卒業後、神経内科を専門とし2001年より鳥取大学医学部保健学科生体制御学講座・教授を務め、2022年4月より現職。
日本認知症予防学会理事長、日本老年精神医学会理事、日本認知症予防専門医。アルツハイマー型認知症および関連疾患を専門とし、外来での診療、予防、ケアなど総合的に認知症と取り組む。
また、認知症早期発見のためのタッチパネル式コンピューター「物忘れ相談プログラム」等の機器開発、アロマによる認知症予防効果の研究、「とっとり方式認知症予防プログラム」の開発を行う。
「NHKスペシャル」「NHKキャンペーン」「あさイチ」「Eテレきょうの健康」、「たけしの家庭の医学」、「主治医が見つかる診療所」等のテレビ番組にも多数出演し、幅広く精力的に啓発活動を行っている。