更年期で起きる症状の要因3つ 「身体・気質・環境」
『【前編:知る】もう一人で悩まない!更年期(メノポーズ)を知ろう』でお話をしたように、更年期での症状の要因はひとつとは限らず、「身体・気質・環境」と大きく分けて3つの要因が考えられるのです。後編では、それぞれの要因について、さらに細かくみていきましょう。
■1.身体要因
更年期を迎えると、女性ホルモンのひとつである「エストロゲン」の分泌量が急激に低下します。エストロゲンは自律神経の働きにも関わるため、減少によって自律神経のバランスが崩れてしまい、のぼせやほてり・動悸・めまい・息切れ・耳鳴りや頭痛・倦怠感などの身体的変化が起こるのです。また、エストロゲンの減少は、イライラや不安、意欲低下など精神的な変化を引き起こすだけでなく、骨の健康にもかかわります。
■2.気質要因
更年期の症状のあらわれ方は、その人の性格やストレスの受け止め方によっても個人差があるといわれています。たとえば、生真面目でがんばり屋さんな方、気遣いを怠らない方などはストレスを感じやすく、更年期の症状にも影響が出やすいとされます。
■3.環境要因
更年期を迎える年代の女性は、仕事上の責任が大きくなったり、子育ての節目を迎えたり、家族の介護を担ったりする方も多いと思います。そういった社会的環境や家庭環境、それに伴う責任感や人間関係からもストレスを感じることが多くなり、こういった要因も更年期の症状に影響してきます。
続いて、実際に更年期による症状があらわれた時の乗り切り方について、「身体・気質・環境」の3つに分けてご紹介していきます。
更年期の乗り切り方~身体編~
■無理なく生活習慣を見直そう
疲れやすい、だるさが抜けないといったお悩みは、日本の更年期女性が訴える自覚症状の中でも頻度が高いものです。女性ホルモンが減少していることだけでなく、食事からの栄養素が不足していたり、睡眠がうまくとれないことでも、「疲れやすい」、「だるさが抜けない」といったことが起こります。身体のコンディションを保つには、適度な運動・バランスの取れた食事・質の良い睡眠が必要ですが、ジム通いをしたり、栄養を計算して献立を作ったり、毎日同じ時間に就寝したり……と高い理想ばかり掲げることはありません。
たとえば運動なら、家の中で座りっぱなしにならないようこまめに動く、エスカレーターの代わりに階段を使う、といったことから始めてみましょう。食事の見直しや睡眠時間の確保も大事なことですが、難しく考えずに「これならできそう」、「ここから変えてみよう」といったささやかな心がけや意識をもつことから始めてみましょう。
■たんぱく質摂取が第一!
私たちの肌も髪も筋肉もすべてたんぱく質でできていて、「壊されて、作られる」を繰り返していますので、毎日の食事から継続的にたんぱく質を摂ることが必要です。日本人の食事摂取基準(2020年版)によると、成人女性の1日当たりのたんぱく質の推奨量(ほとんどの方が必要量を満たす量)は50g、食品でいうと、肉200g+鶏卵3個が目安です。
肉、卵のほかに魚や、そして植物性たんぱく源として大豆製品などがありますので、好みにあわせて取り入れてみてください。また、大豆製品は、エストロゲンと似た働きをする「イソフラボン」を含む食品としてもおすすめです。
吸収率を考えると、1度の食事でたんぱく質20g程度を1日2~3回摂るよう心がけてください。「そんなには食べられない……」と思われるかもしれませんが、まずはランチにゆで卵を追加してみるなど、できそうなところから始めてみましょう。
■必要なビタミン、ミネラルを意識して摂ろう
減少するエストロゲンの働きを補うビタミンやミネラルを、食事の中で意識して摂るようにしましょう。
美と健康におすすめしたいビタミン3選
<ビタミンB群>
しっかり摂ったたんぱく質が身体の中で働く(代謝される)ためには、ビタミンB6が必要です。ほかに糖質の代謝にはビタミンB1、脂質の代謝にはビタミンB2が必要など、ビタミンB群は代謝になくてはならない栄養素です。レバーやウナギ、アボガド、卵などに多く含まれています。
<ビタミンC>
抗酸化成分の代表ともいえるビタミンC。実は、エストロゲンには抗酸化作用もあるため、エストロゲンが減少していく時期には、積極的に補いたい成分です。もちろん、肌や骨の中にあるコラーゲンがつくられるときに必要不可欠な栄養素です。キウイや柑橘系の果物、さらにブロッコリーやほうれん草などの野菜にも多く含まれています。
<ビタミンD>
最近何かと注目されているビタミンD。日光浴で作ることができるので、太陽のビタミンという別名があります。だたし、外出を控える状況では不足しがちなので、食事から意識して摂ることが必要です。ビタミンDは、カルシウムの吸収を高めることで骨の健康に重要なだけでなく、糖代謝、血圧調整、免疫機能など大活躍の栄養素です。身近な食材では、魚類やきのこなどに多く含まれています。
美と健康におすすめしたいミネラル3選
月経血とともに鉄分が失われるため、月経のある年代の女性は、積極的に摂るようにしましょう。日本では20~40代の女性の半数近くが貧血もしくは潜在的な鉄欠乏状態といわれており、食事からの鉄の摂取不足が原因であるといわれています。鉄は、赤血球の中で酸素を運ぶだけでなく、栄養素を代謝する酵素の構成成分でもあり、鉄が十分に摂れていないと、疲れやすく、だるさが抜けない状態になります。
また、肌や骨の中にあるコラーゲンがつくられるときにも鉄分とビタミンCは必須なので、美しい肌と髪、そして骨の健康のためにもしっかり摂りたい栄養素です。レバーや赤身肉、また赤身の魚や、貝類には鉄が多く含まれています。
<亜鉛>
亜鉛は細胞の生まれ変わりに必要不可欠で、不足がちなミネラルです。各種代謝に関わる酵素の活性化に関与し、さらに免疫力を維持するためにも重要です。亜鉛欠乏の状態では、たんぱく合成全般が障害されてしまい、また、やる気がでないなど、こころの元気にも影響します。ですから、肌や髪の状態を整えたり、免疫力を維持したり、健やかな気持ちを保つためにも積極的に摂りたい栄養素です。身近な食材では、牡蠣やうなぎなどの魚介類に多く含まれています。
<カルシウム>
カルシウムといえば骨!というほど、骨の健康に重要なミネラルです。更年期世代でエストロゲンが減少すると、骨の代謝バランスが崩れてしまい、骨量減少につながります。10年、20年先の骨の健康のためにも、しっかり摂りたいミネラルです。牛乳や小魚以外では、アーモンドなどに多く含まれています。
■質の良い睡眠を心がける
更年期世代の睡眠に関するお悩みは、「なかなか寝つけない」、「眠りが浅い」、「途中で目が覚めてしまい、そのまま朝まで眠れない」という訴えが多くあります。睡眠不足が重なると、起きている間も集中力を保つのが難しくなってしまいますね。日中、集中力を上げたい時にコーヒーやお茶などカフェインを含む飲料を摂ることは、頭をスッキリとさせ、能率を上げて「もうひと頑張り!」する味方になります。ただ、より良い睡眠のことを考慮すると、夕方以降はノンカフェイン飲料などに切り替えるのが良いでしょう。また、布団の中でスマホを見る習慣を控えれば、寝つきが良くなりますよ。
質の良い睡眠については、以下のような記事も参考にしてみてください。
更年期の乗り切り方~気質編~
■誰もが通過する時期と知っておこう
更年期は、症状のあらわれ方などに個人差があるとはいえ、誰もが通過する時期です。ただそれを知らないままだと、わけもなく落ち込んだり、気持ちのコントロールがうまくいかないなど、不安になってしまうことも。更年期への理解を深めることで、自分のライフステージの“現在地”がわかり、安心できる手助けになります。いざという時に「これって更年期の症状かな?」と気づけるようにしておきましょう。
■自分ファーストに切り替えよう
これまで、家族や仕事、人間関係のために、生活習慣を相手や環境に合わせてきたこともあるでしょう。でも、思い切って「自分ファースト」に切り替えてみませんか?一人で頑張る時期から、家族や子ども、部下や後輩に任せる、頼る、できないことは断るという選択をしてみる。自分を認め、許し、褒めてみませんか?なるべくストレスを溜め込まないのが更年期との上手な付き合い方です。
■自分にとって心地の良いリラックス法を見つけよう
自分ファーストに切り替えたら、次は自分にとって心地の良いモノ・コトを見つけてみましょう。ハーブやアロマで癒されたり、瞑想や化粧で気持ちをリフレッシュさせたり……。時間をつくるのが難しいかもしれませんが、自分へのご褒美としてマッサージやリフレクソロジーで身体ごとほぐしてもらったりするのもおすすめです。何が合うかは人それぞれ。気になるものはぜひ試してみましょう。
リラックス方法については、以下のような記事も参考にしてみてください。
■漢方、鍼灸が助けになることも
漢方も気質要因をやわらげることに役立ちます。漢方を服用することで、冷えやのぼせなどの身体的な症状が和らいだり、イライラや不安、不眠といった精神的な症状を緩和できることもあります。かかりつけの医師や薬剤師に相談しながら、自分に合う漢方を探していきましょう。
また、意外と知られていませんが、鍼灸師は医療の国家資格をもつ東洋医学のスペシャリストです。最近では、女性専用鍼灸治療院もあります。更年期の症状に東洋医学からのアプローチも検討してみてください。
更年期の乗り切り方~環境編~
■話し合える場所・仲間を見つけよう
つらい時も、同じ悩みを分かち合える相手がいると、不安が和らぐもの。下記の支援センター・団体などに相談しても良いですし、同年代の友人や、先に更年期を経験している先輩と話すのもおすすめです。先ほどの「リラックス法を見つける」ことも、仲間探しのきっかけになるかもしれません。
厚生労働省「女性健康支援センター」事業
都道府県や市町村ごとに、保健師などが女性の健康(一般事項)に関する相談指導を行っています。更年期障害や婦人科的疾患についても取り扱われています。
『NPO法人女性の健康とメノポーズ協会』
■家族にも「自分ファースト」に協力してもらおう
「自分ファースト」の生活習慣を実践するには、家族の協力も欠かせません。まずは自分の状態や変化の原因をきちんと伝え、単なるわがままではなく症状改善のために生活習慣を見直すことを理解してもらいましょう。周囲に理解者ができるだけで気持ちが楽になりますし、また家族にとっても、どう接すれば良いのかを知るきっかけになり、お互いに安心できるはずです。
ご家族の方へ
「以前と何か様子が違う」という、周りの方の気づきで受診と治療につながったケースがあります。毎日わずかな時間で良いので、パートナーやお母様の話に耳を傾けてみてください。特にアドバイスをする必要はなく、ただただ、話を聞くだけで良いのです。
更年期の症状に、身体の変化だけでなく、心や環境も影響しているとは、意外に感じた方もいるのではないでしょうか?まずは症状にさまざまな要因があることを意識し、今回ご紹介した対策も参考にして、実践できるものから少しずついつもの生活に取り入れてみてください。そして何より、ひとりで抱え込まずに、話して、頼ってみてくださいね。